窓から吹き込んできた風に、カーテンがゆらりと揺れる。

 

分厚く暗い色と、白いレースのような2枚のカーテン。

 

それらがまるで踊るように舞い、月の光を室内へと導いた時

そこにあるのは一体の西洋人形。

 

ただ暗く、儚く、そして…いや、だからこそ美しい

 

 

 

 

 

 

 

A Funeral March

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、キラ。」

「なに、ディアッカ。珍しく真剣な顔して…」

 

帰ろうとしていたキラに声をかけたのは、金髪に褐色の肌が印象的な少年、ディアッカ。

手には大きめの木箱を持っている。

 

「これを見て欲しいんだ。…っていうか良ければもって帰ってくれ。」

そういって木箱を机の上に置き、そっと蓋を持ち上げる。

 

木箱に入っていたのは可愛らしいアンティークドール。

 

柔らかくウェーブした長い桜色の髪、透き通ったスカイブルーの瞳

そして白い肌と対照的に、暗く光沢のあるドレス

全てが程よくあって、彼女自身を引き立てていた。

 

「…ディアッカ。」

今までじっと人形を見つめていたキラが口を開いた。

 

「えっ、あ、なに?」

「これ…もらってもいい?」

 

絶対持って帰らないだろうだろうと踏んでいたのか、ディアッカは焦ったように尋ねた。

 

「いいのか、キラ。これ…って、おい!お前人形だけじゃなくって、ちゃんと周りも見てみろって!!

確かに俺も、人形はいいと思うよ、素晴らしい出来だ。けどこの人形の入れられ方はまるで…」

 

そのディアッカの言葉をキラは人形から目をそらさず遮った。

 

「肝心なのは人形でしょ?入れ方や、その周りじゃなくて。

…それでくれるの?やっぱりダメ?」

 

「い、いや。お前がいいなら、いいんだけど…。あ、返却はなしだぜ?」

 

「わかってる。けど、どうしよう、いくらで…」

そういいながら、キラは軽い自分の財布を盗み見た。

 

「いや、いいよ。タダでもってけ、ドロボー。」

そんなキラにディアッカはひらひらと手を振った。

 

「ありがとう、ディアッカ。じゃあね。」

キラは人形の入った箱に元通り蓋をして大切そうに抱えながら、静かに部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

石畳の通りを家路に向かって進みながら、キラは先程のやりとりについてぼんやり考えていた。

 

ディアッカのいっていた“周り”というのは、この人形と箱の間に隙間なく入れられた造花のことだろう。

 

――赤く、まるで死者を弔うように…

 

けれど自分はそうは思わなかった。

彼女の周りの花はまるで…

 

 

 

 

 

 

黙々と歩いているうちに、今住んでいる家に着いた。

石の階段を上り、扉を開ける。

小さな1LDK。両親が亡くなってから移り住んだそこは外と同じくらい寒かった。

 

――当たり前だ…自分しか住んでいないのだから

 

思っていると頬を涙が伝い落ちた。

そのしずくはキラの前に置いていた人形の上に落ちる。

「あ、傷んじゃう…」

 

その時手元にあった布で拭こうと箱ごと持ち上げると、さっきは気付かなかった小さな文字が刻まれている。

 

「えっと、“Lacus Cline”…ラクス=クライン?この人形の名前かなぁ…」

 

ぽつりと呟いた少年の声は1人っきりの部屋の闇に吸い込まれていった

 

 

――――そう、まるでそれらは舞台に立つ歌姫に、と贈られた数々の花束のようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

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