Vexations
「なんでついてくるのよ?」
館の広く長い廊下の途中で、彼女はくるりと後ろを振り向いた。
「だってすることないし?アンタ見てたら飽きないかなって。」
そういって金髪の少年、ディアッカはにかっと笑う。
「す、することないからってついてこないでよ!私はこれからココを散歩するの!誰にも邪魔されない幸せな時間を過ごすんだから!!」
ここなら逢えるような気がした。もう死んでしまったあの人に…
「…散歩ねぇ。じゃあ案内してやるよ。俺だってアイツら程じゃねぇけど結構長い間ココに住んでるしな。」
「なっ…アンタ人の話聞いてなかったの!?私は1人でいたいって…」
するとディアッカはにやりと笑った。
「勿論聞いてたぜ。けどやめたほうがいいって。ここは普通の館じゃねえんだよ。」
「たしかに今では見ない感じの建て方だけど…でも別に普通じゃない。」
少しムッとした表情でミリアリアはいった。
「気づかないかないもんかねぇ…ま、とにかくいろいろとヤバいんだよ、ここは。
だからあんま1人でぼーっとしない方がいいぜ。引き込まれる。」
「引き込まれる?ナニによ?アンタのいってること訳わかんないわ!」
そうキッと睨まれて、彼は困ったように目をそらした。
「ん〜たとえば今お前の後ろにいるヤツとか…」
はっ、と後ろを振り向く。
そこには茶色い髪をした少年がほのぼのとした笑みを浮かべて立っていた。
「僕がなにをするっていうの?ディアッカ。」
少年はそういってすぅっと目を細める。
それと同時に周りの空気もぐっと下がる。
けれどディアッカはそれに臆することなく続けた。
「いや〜だってホラ、昔いろいろあっただろ?それに、これはたまたまお前が通りかかったってだけで…」
「僕は彼女じゃなければあんなことしなかったし、頼まなかったよ。それに僕は別に『前の人』みたいに変な趣味とかないし。
…それとディアッカ。今は君が一番あの時の僕に近い。気をつけてね。」
しばらく2人とも黙り込む。
そしてディアッカが口を開いた。
「お前は後悔しているのか…?」
ディアッカの問いに彼は曖昧に微笑んだ。
「後悔してないけど…でもやっぱりしてるのかな。
あのとき僕が会おうだなんて思わず、ただ影で事を解決していたらきっと僕も彼女も全くの別の生活をしてただろう。
それがいい事なのかはわからないけど、彼女はそれでも良かったんじゃないかと思うんだ…僕は隣にいれて嬉しいけど。」
彼の紫色の瞳に影が差す。
「まぁ僕は今とても幸せだからね、取り敢えずいいんだ。
そして僕は誰にもこの生活を壊させない。壊そうとする者があれば、誰であっても容赦はしない。」
憶えておいて…と彼は呟く。
「あ、あとミリアリア…だったよね?あんまり虚ろな目でいない方がいいよ。
ここは色んなモノを引き付けてしまうんだ。いいものも悪いものも。
それでなくとも、ここは迷いやすいから…そんな様子でいるとすぐ迷っちゃうよ?」
ははは、と彼はいつもどうりの笑みを浮かべた。
「それじゃごゆっくり。じつは僕『種まきに行こ』ってラクスを誘いに行くところだったんだ。ごめんね。」
最後にそういうと、彼は楽しそうな足取りで廊下をまっすぐ歩いていった。
「た、種まき…?」
いままで2人のやりとりに混じれなかったミリアリアがようやく口を開いた。
「ああアイツら…キラとラクス嬢だけど、『家庭菜園』なるものを作っているらしいんだ。
ま、俺はどこにあるのか知らねえけど、この前バスケットいっぱいに苺入ってんの見たぜ。」
「へ、へえ…ここの人達って変わった人が多いのね。」
そんなミリアリアの呟きは耳に入らなかったらしく、ディアッカは彼女にむかってひらひらと手を振った。
「じゃあな、くれぐれも前見て歩けよ!んでからお姫様にもヨロシク!!」
そういって頭の横でピッと左手をたてた。
無視するのも悪いと思い、こちらもしぶしぶ手を振り返す。
すると彼は嬉しそうに笑いそのまま廊下をでておそらく自室へと帰っていく。
とにかく変な人が多いが、それでもココも悪くない…そう思えた。
『どうせ自分には行くところなんてないんだし、楽しい方がいいじゃない!?』
はい!ディアミリ+キラちょこっとの予定でした。けどすごいことんなって、結局ほとんど書き直し。
うぅ…漢字変換は一発でできないし。ディアッカの出番たくさん奪っちゃったし。
私はもしかしたらキララクを他の視点で書きたかっただけな気がします。
一日千夜様のお題ナンバー033クラッシックより『Vexations』
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