手を伸ばしても 伸ばしても求めるものに届かない ときに怒り ときに嘆き ただただ夢中に 手を伸ばす隣にあるものに 気付きもしないで 振り向いたときには もう遅く 薄色の雪が舞う 全てを白に戻す為全てを無に還す為 Oneiromansy.6
あぁ、師匠なのだと思った。ある日忽然と自分の前から姿を消してしまった、あの人が。姿は見えないが確かに、気配を感じた。 淡く… ぐっときつく瞳を閉じた。堪えるように。 「わたくしは、もう…もう、大丈夫ですわ。だから…」 もう、縛られることはありません。わたくしは大丈夫。 繰り返し呟いた。 きっと、かの人は心配してくれているのだ。もしかしたら怒っているのかもしれない。 ――「ココには来てはダメと言っていたでしょう!?」と。 懐かしく思った。もう一度話がしたい。会いたいと。 「もう、大丈夫」そう口に出しておきながら、寂しくて。…結局自分は根本的にまだまだコドモなのだと思い知る。 でも本当を口に出せるほど子供でもなくて。寂しい気持ちは心の中で噛み砕く。 そんなふうに感じるのは今だけで、きっとまた忙しい日々の中、薄れてゆく。これまでだってなんとかやって来れたのだから。 けれど、心の中の楔はほどけることなく。絡み付いたまま、きりきりと締まってゆく。 なにかを探すように虚空を見つめた。けれどその瞳はなにも捉えない。 存在感だけを含んだ風は、ただそこにあるだけ。叱る訳でもなく、優しく抱き締めてくれる訳でもなかった。 風は形を結ぶことなく、流れ、揺らぐ。それでも消えることはなくて。 彼女には、かの人がなにをしたいのかわからなかった。おそらく目の前の老人にも。 いや、わからないという以前に彼女が感じているものを、感じてなんていないのかもしれない。見えているのか、いないのか、わからないような淀んだ瞳は、ラクスを見据えたまま動いてはいない。 探るように、その瞳を見返す。 その様子に気付いて、老人は口を開く。先程の無表情のかわりに、いつも人前で浮かべている好々爺然とした笑顔を添えて。 「いかがでしたかな?」「今は、なんとも申し上げられませんわ。」「ほう。隣町で一番の占師といわれる貴女でも、わからぬことがあるのですか。」 表情は変わらず。けれども、彼女は知っている。その下で、彼がどのような表情を浮かべているのか。 「えぇ。わたくしは神のように万能ではありませんもの。」「そうですか…それは残念だ。」 さも落胆したように呟いた。「あぁ、そうですわ。これはあくまでわたくしの考えなのですけれど…」 改めて真っ直ぐに、目の前を見る。 「貴方がいる限りここに平和などない。そうでしょう?」 このように閉鎖した空間で。限られた生活を送る。それは幸せか。 村の外に出ることなど叶わず、この村に生まれ、そしてここで死んでゆく。 まるで死んだ魚のような目をして生きて。その様子は彼女の周りとはかけ離れていた。 生きているという輝きを、この村の人々は忘れている。 この状態が当たり前で。 ここにいることこそが、当たり前で正しいことなのだと。けれどもそれでは、きっといけない。もうこの土地は見放されようとしているのだ。この土地ごと彼を葬ろうと。 この地に根を張り、同化してゆく彼を。彼がいる限り、この森はまるで身動きがとれない。この土地はすべてが森の一部。 それでも。 痛みを伴ってでも、古い森はそれを選んだ。 やがて切り放された土地は荒廃し、水は濁り、そして枯れる。 「この村を大切に思うのなら、今からでも…」「ハッ!森の意思だと?森に意思などあるか。ものすら言えぬものに。たとえあったとしても、それのなにが問題だというのだ。」 邪魔をするのならば潰せばいい。焼き払うでも、木を刈り尽すでもなんでもいい。 ねじ伏せてしまえば、こちらのものだ。 「そのようなことはできません。だってこの森には主がいるのですもの。彼が許すはずがありませんわ。」 ねぇ、そうでしょう?どこかでそう信じていた。 彼の髪は森を支える土と同じ色。目の前の人の、乾いた灰色ではなくて。 「主?そんなものはいない。ここは全て私のもの。あえていうなら、この私がこの森の主だ。」自信に満ちた声が響く。 日が沈み、なにもない広場にただ二人。 老人と、まだ若い娘。 「…本当に?」――ホントウニ? 小首を傾げて聞き返す。その仕草によって、肩から流れる桜色の髪。 優しげな笑みと、けれど断固として譲らない意思を秘めた瞳。その少し細められた瞳が、不思議と蒼く輝いていた。 「まぁそんなことはどうでもいいだろう。あぁしかし君は私がいるといけないのだと言ったね。ならば私は君の目の前から、消えるとしよう。」言っている意図が掴めなかった。 「君が消えれば、君の瞳に私は映らんだろう?」ニタリとわらった村長の口が頬のあたりまで裂けた。 「お前には本当はなんの罪もないのだがね。恨むのならば、私にこのような傷をつけたお前の母親を恨むがいい。人の分際でこの私に…あのような屈辱を与えた、あの女をな!」吐き捨てながら、手を伸ばした。 もうすっかり骨と皮だけになってしまった手。その手が、指が、白い首に巻き付いてゆく。 絞め上げられてゆくのを感じながら、ふとあの人の気配が消えているのに気がついた。 ――師匠… 苦しい。 もがいても棒のような手は、びくともしない。 誰かに助けて欲しかった。自分の愚かさを呪いながら。左腕で必死に引き剥がそうとしながら、右腕を前に広がる森へと差し出す。 「助けて…」 『もし、なにかあったら…』 「…キラ。」 名前をよんで。 ぶわりと風が吹いた。下から上へ、舞い上げるような。森の葉々は、高く吹き上げられる。 ざわめき、まるで畏怖するように… 目を凝らすと、異質なものが見えた。 見知った気配を、――風を纏って。 いままでなかった黒い影。折り畳まれていた姿が立ち上がる。 風のせいではなく、ゆらゆらと舞い上がり、たなびく褐色の髪。浮かび上がる濃紫の瞳。 明るい所での印象とは、まったく違うその姿。 そして少女めいた顔に浮かんでいるのは、微笑。すべてを隠す、ある意味鉄壁のポーカーフェイス。 穏和で、和やかで、優しくて…そしてきっと。 誰よりも冷酷かつ、冷徹になれるであろう人。
感情のない笑みを浮かべて、その人は立っていた。
よ、読みにくい…。そして一体何ヶ月ぶりなんでしょう、なお話。書いてる本人もなにを書いてたのかとか忘れてしまって(汗)
しかもちょっと無理矢理チック(笑) んなあほな、とかボヤきながらボチボチ書きます。あぁ恥ずかしい…
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