透き通るような夜空が 星達の晴れ舞台
晴れた夜にしか 立てない
それらはとても美しいのに 私にはみえなくて
いつからだろう
ただ金色に光輝く月にのみ 目を奪われてしまうようになったのは…
Oneiromansy.5
少女は手に持った水晶を目の前に掲げる。
ちょうど目の前の老人の額を水晶を通して見通すかのように。
「ラクス殿?どうかしましたか…?」
彼女はその問いに答えず、その水晶をみつめている。
―――やはり、あの方の気配が…
少し水晶から目を離して、村長の様子を盗み見る。
老人の様子に変わりはない。
その時、森の方からザッと風が吹いた。
冷たくて痛いのに、どこか懐かしい
ふと眼前に広がるのは、いつかの光景
ずいぶん昔で、少しセピア色に褪せてしまっている
誰かのいつかの記憶
ずるずると、歩く。
煌びやかという訳ではないがそれなりに仕立ての良い服、金色の髪飾り
けれど服の端々は破れ、長い桜色の髪は絡んでバサバサになっている。
そして華奢な手足のなにかに引っかかったような傷からは、血が滲んでいた。
けれど、少女はただ前を向いて足を進める。
蒼い瞳はなにも映さず、少女らしいあどけない顔にもなんの表情も浮かんではいない。
ふと彼女の前に影が差した。
少女は胡乱な瞳でその影の持ち主を見上げる。
金色の髪の女の人が、すっと水の入った壺を差し出した。
この辺りでは水はとても貴重なものだ。そう簡単に手に入らない。
「飲みなさい。あなたに聞きたいことがある。」
「お父さんと、お母さんはどこに?あなたを置いてどこかに行くとは思えないが。」
少女が落ち着いたのを見計らって声をかけた。
「父と母は死にました。父はずっと前に、母はこの間…。」
「まさか…」
ふと思い当たることがあった。
彼女が生まれて間もない頃、彼女の母親と話した中に…
陽の光が一番入る子ども部屋の窓の傍に、その女性は立っている。
淡い桜色のかみを風の中で遊ばせながら、すぐ壊れてしまいそうな微笑を浮かべて。
「お元気そうでなによりです。生まれた子も…」
私がそういったのを聞いて、彼女は少し寂しそうに首を振った。
「そうね…けどそれは、きっと今だけ。わたしはこの子が大きくなるまで見守ってあげることができない。」
「なっ…どうしてですか?」
「あなたならみえるんじゃないかしら?みようと思えば。わたしはココにね、大きな傷を持っているの。」
鎖骨あたりをを押さえながら言った。
「元々はなんでもない傷だったの。けれどね、この傷はどんどんわたしを蝕んでゆく。」
「どんな傷でも治らないものはありません。その傷を見せていただけたら、私がすぐにでも解決する手立てを…」
そうね、ありがとう。そう軽く流された。こっちは冗談のつもりじゃないのに…
「むだなのよ、これは消えない。あなたがどんなにすごい人でも。だってこれは…」
恨みのこもった傷だから…
「妖狐がね、昔この村を襲ったことがあるの。どんな呪術師を呼んでも倒すことができなかった、黒くて大きな強い妖狐。
だからわたし、冗談のつもりでやってみたのよ。
こっそり祭殿に祀ってあった宝剣を持ち出して、森で狐が現れるのを待って…そして現れた狐の真の臓を刺した。
けれど刺しきれていなかったのか、それともたんにあちらの生命力が格段に上だったのか、それはわからないのだけれど逃げられてしまったの。
わたしの左胸にほんの1cmほどのかすり傷を残してね。」
「それから何年かたってもなんの変化も無かったの。だけどここ1年、急に傷が広がり始めた。
もしかするとあの狐、完全に力を取り戻したのかもしれないわね。
…わたしがこの傷に喰われるのは仕方がない。だって自業自得だもの。
けどこの子には、なんの罪もない。幸せになって欲しいの。
特別なものじゃなくていい。この子の望むように、生きさせてあげたい。
未来が決まっている、みえている、そんな人生はわたしなら嫌だもの。」
その言葉が一体何を示しているのか、その頃の私には予想なんてできなくて、とりあえず聞いてみた。
「未来が決まっている人生、ですか…?」
「ええ…狐に一生狙われ続ける。この子はわたしの血をひいているから、きっとあの狐にはわかるはず。
わたしを殺すだけでは、わたしの血筋が消えないということをね。
よくは知らないのだけれど、どうやらわたしの一族はヘンらしいの。
わたしが狐を傷つけることができたもの、おそらくはその血筋の所為。
わたしにはとくに目立った特性みたいなのは無いみたいなんだけど…」
「“声”ですよ。」
「え…?」
「あなたの声は悪意を持つものを弾く力がある。それは普通の人間ではありえない。
たくさん話してあげてください。歌ってあげてください。あなたがこの子の幸せを望むのなら、その願いを込めて。
私も及ばずながらお手伝いさせて頂きます。」
彼女はいつも通りの笑顔を浮かべた。
「ならもしこの子が一人になってしまったとき、一緒にいてあげていただけますか?
アイリーンさん。」
「師匠、これはこうでよろしいんですの?」
彼女の問いに、「ああ、そうだよ」と返しながら、いつのまにか大きくなった少女を見た。
元々母親に似ていた容貌はますますそっくりになってきている。
だが少し違うのはその声。
彼女の声は、母親の力をも遥かに超えている。
彼女ならできるかもしれない。無事に生き抜き、幸せを得る。
母親がなにより望んだ願いを…
「歌ってごらん、ラクス。今日は気持ちがいい日だ。天に感謝を込めてね。」
そういわれて彼女はすんなり歌い始めた。
透き通る青い空に響く声。
本当に天まで届けばいいと思った。私の思いも共にのせて
あぁ、ラクス様が出てこない。なんで?どうして?
とりあえず、終わる見込みがでて参りました。
それとも脱線しただけかも…もしかするとこの回、なんの意味も無いものになってるかもですね。
ちゃんと、最後を考えてから書き始めないと大変だ…いつも言ってますね(笑)
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