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人形は歌う

 

 

暗闇の中 冷たい石の上に立って

 

もう聞く人もいないというのに ただただ歌い続けた

 

美く澄んだ声で

 

 

そうして彼女は最期を待っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A Funeral March  -The day of doom-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ胸の奥が痛くて、気分が悪い

 

そんなものを感じるはずがない自分がなぜ…?

 

 

考えていてもわからないので、とりあえず作りかけの料理に手を伸ばす。

 

途端に、せり上がってきた不快感に、思わず手で口を塞いだ。

 

 

「っ…」

 

 

指の間からこぼれたのは白い砂

 

止まることなく流れてゆく。

 

 

白い指が木の床を掻いた。

 

 

「わたくしはまだ…まだ消えたくはありませんのに。

約束しましたの、ここにいるって。彼の傍に、ずっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアを開ける音がする。

 

 

「ただいま、ラクス。こっちはカガリっていって、僕の双子の…」

 

 

途中でキラの言葉が途切れた。

 

紫の目を見開き、驚いたようにこちらをみている。

 

手から鞄が滑り落ちる

落ちたそれをさっと跨いで、床に倒れているラクスに駆け寄った。

 

 

「ラクス!いったいどうしたの?…何があって…気分が悪いの?

顔が真っ青で、まるで…」

 

 

まるで…

 

 

「キラ、わたくしは大丈夫ですわ。人形ですもの…死んだりするものですか。

貴方とも約束しました。一緒に…」

 

またごほごほと咳き込み、砂を吐く。

 

 

「ラクス…足が…」

 

「え…?」

 

 

はっと自分の足を見てみると、パキパキと亀裂が走っている。

 

 

「逝ってしまうの?父さんや、母さんと同じトコロへ…」

 

 

逢った時と同じように、少年はまた涙を流した

 

そのしずくは同じように彼女へと

 

 

けれどそんな奇跡は2度も起こらない

 

 

ひび割れた足は、砂と化してゆく

 

 

少女はそっと涙を流す少年へと手を伸ばした

 

 

「キラ…泣かないでくださいな。

わたくしは人形で、魂など持てよう筈もなかった。

けれどこうやって貴方と改めて逢えたこと、はなせたこと…

たとえ神様の気紛れであったとしても、わたくしはとても嬉しかったのです。」

 

―――忘れないで…貴方が忘れてしまったら、わたくしの存在は

   初めから無かったことになってしまうから…

 

 

彼女の身体は霧散した。

 

彼女自身であったのだろう白い砂も、ドレスも、そして木箱まで

 

 

言葉とたった一つの銀の指輪を残して

 

 

「…ありがとう」

 

 

最後に残ったその言葉が、キラの中にあったなにかと重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い街、寒く凍えそうな空気…行くあてなく彷徨った。

 

帰りたい場所なんてなかった

帰っても誰の声もしない、そんな暖かみのない部屋になんて戻りたくなかった

 

通りをとぼとぼ歩いていると、少しむこうにある噴水の方から声が聴こえてくる。

 

 

「だれかうたっているの…?」

 

 

歩いていた足の方向を少し変えてみた。

 

…もっと近くで聴いてみよう、と思って

 

 

 

噴水のある広場へ出た

 

そこに居たのは少女一人

 

その噴水の石段に立っている。

 

桜色の髪が月の光を浴び、夜の闇の中一際明るく輝いていた。

 

 

そして透明な澄んだ声

 

優しく、綺麗で…だけど少し寂しい

 

 

そう感じたのは、その時のキラの気持ちだけでなく

 

その少女が、なにかを憂いを帯びた瞳で冷たい月を見つめていたから

 

 

―――ずっと見ていたい

 

 

そう思った

 

けれど少女はすぐ気付き、くるりとキラの方を振り返る。

 

そして少し警戒した様子で、口を開いた。

 

 

「…貴方は?」

 

「僕は、えっと…キラ。お姉さんお歌が上手いんだね。

けどどうして…そんな顔をしているの?悲しいことでもあったの…?」

 

 

静かな湖のような蒼い瞳が見開かれる。

 

 

彼女は軽く首を振った。

 

 

「悲しいことがあったのではないの。わたくしが…

悲しいことを起こしてしまったの。お父様を…」

 

 

 

 

少し首を傾げて聞いていたキラはふと思い出したように、ポケットの中を捜し始めた。

 

そして、そっとラクスの手をとる。

 

 

彼女に握らせたのは銀の指輪

 

母親の形見で、自分の宝物の一つ

 

けど…

 

 

「これを…わたくしに?」

 

「うん。僕がつけるには少し大きいから…だからお姉さんにあげる。」

 

 

「けれど、わたくしは…」

 

「…いらない?」

 

 

喜んでは貰えなかったのかと、少ししょんぼりしながら尋ねた。

 

すると彼女は「いいえ」と答えた。

 

 

「けれど…これはきっと、貴方が一番大切な人を見つけたときに差し上げるべき指輪ですわ。

…ですから、わたくしは…」

 

「じゃあ、その人が見つかるまでお姉さんが預かって?

それまでお姉さんが僕の一番大切な人。ね?」

 

 

彼女の表情が変わった。

 

ただ悲しそうだったのが、笑い泣きのような表情に

 

そして…

 

 

「…ありがとう」

 

そういって笑ってくれた。

 

なによりも綺麗な笑顔で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラ…クス……。」

 

そっとその指輪に触れる。

 

なんだか少し温かいような気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

どんなに泣き叫んでも、失ったモノ、壊れたモノは戻らない

 

ただの人形としてしか生きられなかった少女は永遠の眠りにつく。

 

彼以外の誰にも知られることなく、静かに……

 

 

 

         ――END――

 

 

 

 

あ、明るいハッピーエンド物が書きたい。幸せにしたげたい…くすん。

いつも以上に矛盾がありますが(自分でも確認済み…)、どうかまた多めに見てやって下さい。

で、数少ない設定としては…

1.                  人形と学生

2.                  現代じゃない

3.                  石畳のヨーロッパな街並

…でした。相変わらず少ないっすね。

珍しくビビッときて、最初と最後はすぐ書けたのですがそれをなかなか繋げられなくて…苦労しました、ハイ。

なんてことがあったので無理矢理っぽい感じに3部構成。

2パターンのエンディングで…とか思っていたのですが、今はちょっと無理っぽいです。

タイトル頑張って考えたのに…

 

ご指摘、ご感想、ご要望(ネタを提供してやって下さい!!)など是非コチラへ!!

 

 

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