魔の巣窟 no.2
勢いよく王宮を飛び出し、王都を人目を気にしつつ逃げる。
2日はなんとかもったのだが、ついに3日目に追手に見付かってしまった。
5、6人のオーブ現国王直属の兵がじりじりと2人を追い詰める。
背後には下も見えないほどの崖。
おとなしく彼らにつかまり、連れ戻されるか。
よくわからない崖から飛び降りてみるか。
それとも…
「どっちも、ゴメンだッ!!」
カガリはそう叫ぶと、腰の剣を抜き、切りかかった。
教育の一貫、護身術として鍛えられた剣術、及び格闘術に彼女は結構な自信があった。
順調に敵をのしていった彼女の前には、あと1人。
間合いを詰め、切りかかる。
が、簡単に止められ、蹴りとばされる。
ドサッと尻餅をついたカガリに、ミリアリアが慌ててかけよった。
そんな彼女に、大丈夫だと伝えようとしたその時、カガリにはイヤな予感がした。
グラリと足下がずれた。
次の瞬間には、隣にいたミリアリアと崖下へと落ちていく。
「…結局、こうなるのかよっっ!」
そんな叫びとともに、少女2人は暗い闇へと吸い込まれていった。
*
「でさ、俺達はナニをしてりゃいいワケ?」
いい加減飽きてきたというように、金髪に褐色の肌をした青年はぼやいた。
それに対し、一緒にいた銀髪蒼眼の青年は猛然と反発する。
「なにを言っている!たけのこと白トリュフを探すようにと、ラクス嬢から直々に『お願いv』されただろうが!!」
「や、ってか『たけのこ』って春だし…そもそも白トリュフなんざここらにあるわけないし。」
「ラクス様がデタラメを言うはずがないだろう。」
胸を張って堂々と言い切る青年に「あ、そう。」と疲れたように返す。
しばらくぼーっとしていると、目の前の青年が顔をあげた。
「どうかしたか、イザーク。」
「…なにか聞えなかったか?」
「いや、別に…」
空耳だろう、と言おうとしてやめた。
バキバキと木の枝が折れる音。
最後にドサッという音がして、またもとの静寂が訪れる。
「…なんだったんだ?」
「さぁねェ…」
これがあの時、彼がおまけのように言った、でも本当は一番して欲しい事なのかもしれない。
そんな風に青年は思った。
*
『そうですわ。キラ、お二人にお願いしてはいかがでしょう?』
『僕は構わないよ』
にっこりと微笑みあうと、彼らは2人に向き直った。
そこから、拒否権ナシの『お願い』が始まる。
『たけのこと白トリュフをとってきていただきたいんですの…この森から。』
無理ですか、と小首を傾げて尋ねる彼女に、イザークが素早く反応した。
「いえ、喜んでお引き受けします。」
「おいっ…」
『まぁ。お二人ならそう言って下さると思っておりましたの。ではお願いしますわ。』
ものすごい面倒そうな青年とは対照的に、イザークは喜々として敬礼までしている。
「おまかせ下さい。」
そうして部屋から出て行こうとした2人に、『あっ!』と声をかけられる。
「なんだ、キラ」
先程までとは全く違う不機嫌な声は気にせず、キラと呼ばれた少年は付け加えるようにして言った。
『最近この森に迷い込むのが多いんだ。探し物の最中にもし見付けたら、臨機応変に対処しといてくれる?』
あ、でもたけのことトリュフは家までね。
にっこり微笑んだまま。
それが余計に訳わからなさを膨らますのだ。
妙な感じがした。
それがいい予感なのか、はたまた悪夢の始まりなのか。
わからないが、なにか自分の思考を一転させるようなことが起きるのではないか、なんて考えていた。
彼らにしても、彼自身にしても、退屈な毎日を覆すなにかが欲しかったのだ。
「少しくらい、のってやってもいいか。」
このちょっとしたゲームに。
*
そう思ったのはきっと間違いだったのだ。
溜め息をつきつつ、青年ディアッカは思う。
「…ディアッカ、こいつらもしかして」
「もしかしなくても人間だな。」
けれど一体どうして…人間はここに入ってこられないはず。
ここらは『彼』の管轄地で、『彼』の許可なくして立ち入ることはできない。
気付くと森の入り口に戻っていたり。
それなのに。
「っていうか、あの崖から落ちて、こんだけの怪我ってのがどうも…」
目の前に横たわっている二人の少女を横目で見つつ、はぁと溜め息をついた。
しばらくしてザワリと木々がざわめいた。
すっとまた視線を元の場所に戻すと、随分と前に別れた少年が立っていた。
ぴらぴらと手を振っている。
『やぁ。』
「いや、やぁじゃねぇし。ってかお前透けてんぞ…」
『まぁね。精神だけだから、しょうがないよ。今買い物中なんだ。』
てへっという効果音がつきそうな笑みを浮かべている。
ぱっと見はこんなに無害そうなのに、と内心溜め息をつきつつ、ディアッカはピッと自分の背後を指差した。
「なんか入り込んでたぜ。」
『うん、みたいだね。じゃあそれでいいや、ウチに連れてきてよ。たけのことトリュフのかわりにさ。』
「…食べるのか?」
『まさか、イザークじゃあるまいし。ただちょっと興味があるだけ。』
僕じゃなくてね。
クスリとまた笑った。
さっきとは異なる、どこか違うところを見ているような、そんな瞳で。
紫の瞳は、ただただ禍々しく。
鬱蒼とした森の中、佇んでいた少年は少し目を細めて、そして消えた。
うぅっ…一体何ヶ月ぶりの更新なんだろうとか思いつつ。
たけのこがなんの意味もなさない余計なモノになってしまった。
私が食べたかっただけなんですよぅ…><(ヲイ)
プラウザでバックをお願いします。