出逢えた喜びを 愛してゆく意味を
 
溢れる優しさで 伝えて欲しい
 
 
さよならも いえないくらいに…
 
 
 
 
 
 
ブルーベリードロップ。
 
 
 
 
 
 
 
「…お待ち下さい…ま」
 
そう誰かが誰かをたしなめるような、でも諦めたような、小さな声が聞こえた。
 
誰かが何かを言い返す声も。
誰かなんて考えるまでもなく。
 
 
 
それからしばらく、ひとり歩く。
 
王城の庭に面する吹き抜けの廊下。
そうっと可愛らしい足音が近付いて。
 
あと、少し。
そう思った次の瞬間。
 
ぱふっ、と首筋になにか暖かいものが跳び付いた。
ぐらりとよろめき、前に倒れそうになった体を、少し前に出した左足で支える。
 
もう少しあったはずの彼女との距離。
その距離を跳び付くことで縮めたお姫様は、自分がよろめいたことになぜか満足気な表情を浮かべている。
背中にくっついたまま。
 
彼女曰く、慌てる自分が見たかったらしい。
 
 
 
まったくあなたという人は…と少しため息をつきつつ、言う。
 
「後ろから跳び付くなんて。もしわたしが倒れていたら、あなたも怪我したかもしれないんですよ、クラン様?」
 
首に巻き付いた腕を剥がそうと、手を伸ばした。
ぴたりとくっついた彼女は首の後ろから、表情と比例したうきうきとした声で返す。
 
「大丈夫だ。ジェスも私も、そんなにヤワじゃない。」
 
「いえ、そうではなくて…」
 
剥がそうと伸ばした手が行場をなくし、さまよう。
 
困ったように苦笑しながら、でも今の状態に満更でもない自分がいた。
 
 
 
てくてくと彼女を特に意味なく…というか降ろす機会を無くしたままだったので、背負って歩きながら、ぽつぽつと話をする。
 
王立学院での友達のコト。
この前の授業で学んだ、自然科学の豆知識。
 
たかが一週間…されど一週間。
7日分の面白かった事、楽しかった事。
 
話の種は尽きない。
 
そしてさりげなく彼女に周囲の様子を聞く。
――特に日頃近くにいる侍女などとの関係など。
いわく付きの王女だ、といろいろ言う人がいるのだ。
 
軽い興味から。
なんとなく。
そして、「気に入らない」という悪意から。
 
理由は様々だが、ほろりとした、欠片のようなその一言一言が、彼女の幼い心を傷つけていく。
 
そうなる前に。
未然に防ぐ事が出来れば。
彼女が気付かぬうちに、相当の手を打つことができる。
彼女が感じる痛みも、きっと少なくて済む。
 
あの紫水晶のような瞳が、痛みに潤むことがないように。
小さな背を丸めて、庭の樹々の奥深くで一人、泣くことのないように。
 
 
 
よいしょ、と背中の彼女を背負い直す。
 
「あぁ、そういえばジェス。この間のサボテンが花を咲かせたのだ。」
 
この間のサボテン…
というのはガジェスがもう無理だろうと言ったのを、クランクレイアが熱心に世話をし、見事復活させたというものだ。
あんなに小さいサボテンの花なのだから、小さいに違いない。
 
けれどそれでも、彼女を喜ばせるため、一所懸命に黄色の花を咲かせているのだろう。
 
「…ス、ジェス?」
 
「あ…はい?」
 
ぼんやり考えているうちに話は進んでいたらしい。
子どもらしくぷくっと頬を膨らませる様子がなんとも可愛らしくて、自然と笑みが溢れる。
 
彼女は膨れっ面のまま、首に回した腕に力を込めた。
ぎゅっと抱きつくようにくっついた彼女の黒髪が、ふわりと頬に当たる。
 
 
 
甘えられるのは嫌いじゃない。
3兄弟の末子で、甘えられることがなかっので新鮮というよりも。
 
彼女だから。
めったに人に甘えることのない彼女が、心許してくれているという、その事実が。
 
本当は何よりも嬉しいのだ。
 
 
 
けど、今はそれよりも。
 
頬に当たった髪が、こそばゆい。
 
ねこじゃらしで遊ばれる猫も、こんな気分なのだろうか。
おまけに甘い、お菓子のような香りがして…
 
甘いものは苦手だけど。
食べるのは甘さを抑えてもらわなきゃ嫌だけど。
 
でも彼女が絡んでくると――そう、例えそれが苦手なものであっても――可愛らしく、愛しく感じてしまうから不思議だ。
 
 
 
 
「ジェス…おぬし、またなにも聞いてなかろう?」
 
「いえ…勿論聞いていましたよ。サボテンの話でしたね。」
 
慌てて言い繕うがボロが出た。
 
「その話はもう終わっておる!…もう良い」
 
一旦直っていた膨れっ面が再登場。
あーあ、と一人心の中でため息をつきつつ、見上げた空はもう夕暮れの紫。
 
それは、自分と同じく空にみとれている、彼女の瞳と同じ色。
 
 
少し神秘的で、ワガママで、気まぐれで。
 
でも本当はなにより優しい、そんな色。
 
 

 

 

 

 

 

 

ものすごくタイトルと中身が無理矢理…なのは置いといて。冒頭はELTのとある曲から。

初ガジェスさんとクランクレイアさん。通じる方はいるのだろうか。マイナーっぽいなぁ。

『天を支える者』(集英社・前田珠子サン)の古戀唄というものに出てくる方達です。

王女サマ()とお金持ち公爵家の三男坊の小さな恋のメロディーということでして。

本当はもっと早く出来るはずだったんですけど、予想外に時間がかかり目的を果たせなかった…というか!

もうお祝いには遅すぎますか?ヤバいっすか?(心の声) せっちゃーんっ!!遅くても、おめでとうっっ!

 

 

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